この記事は北村曉(@kits_)によるSpeedcubing Advent Calendar 2020 8日目の記事です。7日の記事はじゅうべえさんの kits_さんの前日に面転八面体(FTO)の開眼解法について でした。9日の記事は ひらけんさんの 「超多分割FMCやってみた」 の予定です。
本文書では、立体パズルの1種である FTO (Face Turning Octahedron) の目隠し(blindfolded, BLD)解法について説明します。前提知識として、3x3x3キューブの目隠し(3BLD)解法である 3-style の知識を使用することをご了承願います。
FTO 手順を記載するにあたり回転記号の定義が必要となりますが、それにはまず基準となるパズルの向きを決める必要があります。現在 FTO の基準の向きとしては以下2通りの流派があります。(括弧は LanLan Octahedron の配色での例)
スピード解法の解説では後者の方が主流となりそうですが、本文書では、R U R'
などの 3x3x3 キューブでもおなじみの手順を流用しやすいことから、前者の向きを基準として解説をしていきます。
FTO パズル製品としては現在ほぼ一択とも言える LanLan Octahedron (tribox, smartship) の配色を本文書でも使用します。また、筆者は 3x3x3 目隠しにおいてU白、F緑を基準面としているため、本文書でもそれを前提とした解説、および図を掲載します。異なる基準面を使用したい方は適宜読み替えをお願いします。
U白、F緑を基準とした各面の色は以下の通りとなります: U白 F緑 R灰 L赤 D黄 BR青 BL紫 B橙
FTO を揃えるには配色を覚えることも重要となります。
ようやく回転記号の説明に入りますが、3x3x3 キューブの記号法とほぼ同じと考えて構いません。ただし面が8つに増えるため、U, F, R B, L, D に加えて BR(右後), BL(左後) の記号を使用します。
U面の時計回りを U
、反時計回りを U'
とします。(120度回転なので U2
はありません)
また、内層回しの記号として、小文字の r, l、および E を使用します。(なお実際に l
を回す際は、筆者は BRw' BR
のようにBR面を持って回しています)
2層回しの記号も使用します。(Uw
, Lw
等)
限定的ですが持ち替えの記号も使用します。以下に本手順で使用する記号について記載します。(括弧内は U白 F緑 から回転した結果の面の色)
y2
: Uの時計回り方向に120度回転。 (U白 F青)x y'
: 後ろに倒してUの反時計回り方向に60度回転。 (U緑 F赤)y' x'
: Uの反時計回り方向に60度回転し、前に倒す。 (U青 F白)z'
: UB、FDコーナーの頂点を軸に反時計回りに90度回転。 (U青 F灰)手順は主にコミュテータを使用したものとなるので、コミュテータおよびセットアップを表すための以下の記号も使用します。
[A, B]
= A B A' B'
[A: B]
= A B A'
例えば [U': [r' E' r, U']]
は展開すると U' r' E' r U' r' E r U U
、末尾の U U
はキャンセルされて U' r' E' r U' r' E r U'
となります。
FTO の大きな特徴として、パーツの或る面は、辺で接する隣接面には移動しないということが挙げられます。例えば緑(F)のパーツは青(BR)、紫(BL)、黄色(D)の面には移動可能ですが、辺で接する白(U)、灰(R)、赤(L)および対面の橙(B)の面には絶対に移動することができません。
このため各パーツの色は以下の2つのグループに分かれます: (1)緑 青 紫 黄 (2)白 灰 赤 橙。 どんなにスクランブルされていても、1つの面に(1)の色と(2)の色の両方が含まれることはありません。
またこの性質より、センター、エッジ、コーナーの各パーツの解決において以下の特徴を持ちます。
前述の通り、センターの解決は2段階に分けて行います。まず通常の向きで F(緑), BR(青), BL(紫), D(黄) の面のセンターを解決し、
次に z'
持ち替えをして、同様に F(灰), BR(橙), BL(白), D(赤) の面のセンターを解決します。
なおこの z
回転の持ち替えは、なるべく少ない動きで2グループの色を切り替えるということで考案しましたが、z
でなく z'
を選んだのは筆者の好みです。他の持ち替え方を使用してもよいと思います。
日本のキューブ用語で言うところナンバリングですが、筆者は以下を用いています。あ行・か行・さ行・た行の3文字ずつを使い、基本的には時計回り、BL面は反時計回り(左右対称性のため)に文字を割り振っています。(エッジ、センターでも同様)
バッファは赤字(い)で示した FD のパーツを使用します。
前述の通り解決は F, BR, BL, D の面に対して行うため、他の4面に別の文字をふる必要はありません。
ここからセンター解法で使用する手順のうち、基本的なものについて述べていきます。右手(R)を使う手順を中心に記載し、左手側(L)の手順やセットアップが必要な手順については省略します。詳しくは FTO手順表 (Google Spreadsheets) をご参照下さい。
FD BRD BLB の交換は [R U R', E']
で行えます。3x3x3 でもおなじみ R U R'
の動きが、BLB をバッファ FD にインサートする動きとなります。(このためにバッファを FD にしたとも言えます)
BR, BL 面の交換としては FD BLF BRD の交換を行う [R' U' R, E]
という手順もあります。
U R U'
の動きで FD を BLB にインサートできるのですが、この場合のインターチェンジは r 列となります。FD バッファを r 列に載せるための F
セットアップを加えた [F: [U R U', r]]
が、FD DF BRB の交換手順となります。
交換対象のパーツが左右同じ側(この例では右側)にある場合は、FD BRB DR を交換する [F: [U' R' U, r']]
という手順もあります。こちらはバッファにインサートする動きとなることにご注意下さい。
FD FL BRB の交換は [U' R U, r']
となります。
別パターン、FD BRD FL の交換は [R U' R', E']
となります。
先に現れた U' R U
の動きはD面との交換でも利用でき、インターチェンジを変えた [U' R U, r]
が FD FL DL の交換となります。
センター3点交換の基本的な手順は以上となります。
センターでは分析結果が奇数文字となることがありますが、その場合は分析文字にF面のバッファ以外の文字(FR(あ)またはFL(う))を加えて解決すればよいです。このあたりは 4BLD (4x4x4キューブ目隠し) のセンターと同様です。
ちなみに FTO でパリティが生じるのはセンターのみです。安心ですね。
前述の通り、FTO のエッジには反転の状態が起こりません。そのため文字を振るのはエッジの2面のうち1面にのみでよいことになります。筆者はセンターと同じく F, BR, BL, D の面に文字を振った以下の lettering scheme を使用しています。
バッファは 3BLD の最近の主流 UF にならって FU(あ) を使用します。
ここでも基本的な手順のみを紹介します。詳細な手順は FTO algs をご参照下さい。(テンプレ)
エッジコミュテータ手順はU面インターチェンジの手順がまずは分かり易いかと思います。内層回転を用いた r' E' r
により BRF エッジを BRU にインサートします。この時バッファをまたぐようなパーツの動きとなるので少々違和感があるかと思いますが、ここは FTO とはそういうものと割り切りましょう。
インサートを考える上で、初めのうちは、E
, E'
の動きでエッジがどこまで移動するのかのイメージがなかなか掴みづらいと思いますが、E
1回で辺を2つ超えると考えるとよいと思います。
インターチェンジ U'
を加えた [r' E' r, U']
が FD BRF BRU の交換となります。
上図 FU BLU BRF の交換は、[l' E l, U']
の手順で解けますが、U'
セットアップをして [U': [r' E' r, U']]
(= U' r' E' r U' r' E r U'
)と解くこともできます。
キャンセルがあるとは言え1手余分に増えた手順とはなりますが、この動きはU面の動きが同じ方向の U'
3回で分かり易いという利点があります。
エッジ手順は内層回しが多くなるため、手の動きで手順を覚えることがなかなか難しく、手順の途中で「さっき回したインターチェンジはどちら向きだっけ?」というようなことになりがちです。筆者はなるべく回転記号を頭の中で唱えながら回したりしていますが、このようにインターチェンジ回転に迷わない手順を選択するのも一つのやり方になるかと思います。
セットアップをものすごく頑張れば、エッジをU面インターチェンジ手順のみで解くことも不可能ではないとは思いますが、E層やD面にあるエッジ2つとの交換を行うには少々困難です。ここはR面等の側面をインターチェンジとする手順も覚えておきましょう。
U面へのインサートでは r' E' r
等、r列やl列の動きから始まりますが、側面へのインサートではE列の動きから始まります。E r E'
でバッファ FU を FR にインサートする動きとなり、R
インターチェンジを加えた [E r E', R]
が上図 FU FR DR の交換となります。
応用編。上図 FU DR BLF の交換は R'
セットアップを用いた [R': [E r E', R']]
の手順で解決できます。これもR面の動きが R'
のみとなるのでさほど難しくはないかと思います。
側面インターチェンジの手順は L, BR, BL 面でも同様に作ることができるので、これらを習得しておけばエッジ交換手順のセットアップは多くても2手で済むかと思います。以下に各面での手順例を紹介します。
[E' l' E, L']
[E l' E', BR]
[E' r E, BL']
実は内層回しを使用しないエッジ交換手順も存在します。上図 FU BLU BRU の交換は、R U R' U R U R' U
の8手で解決できます。外層8手のみなのでとても簡単ですね。
ただしこの手順は、パーツの動きをよく見ると分かりますが、実際にはエッジではなくコーナー(と、隣接する側面のセンター)の交換を行う手順です。結果としてコーナーの位置が同じとなるので一見エッジの3点交換に見えますが、実はセンターも含めた6パーツが回転する手順となっています。
センターを巻き込む交換であるため、この手順ではセットアップを用いることはできません。そのためバッファ FU を含む U面、または F面のエッジ3点交換においてのみ使用可能な手順となります。
上図 FU FR FL は持ち替えをして [x y': R U R' U R U R' U]
で解決します。
また、この特殊手順を使うには先にセンターを解決しておく必要があることをご注意願います。
コーナーは180度の反転が起こり得ます。そのためコーナー1パーツにつき2つの文字を割り振る必要があります。筆者はセンター、エッジと同様、F, BR, BL, D 面に文字を割り当てた以下の lettering scheme を用いています。
バッファは、こちらも 3BLD の最近の主流である UFR にならって FR(あ) を使用します。
FTO におけるコーナー3点交換の手順は少々特殊なものとなります。以下に説明を述べます。
基礎となる手順は [R' U' R, D]
といったコミュテータ手順ですが、これのみではコーナー3点交換を行うことができません。例として完成状態から [R' U' R, D]
を加えた状態の図を以下に示します。
このように [R' U' R, D]
という手順では、コーナーだけでなく、コーナーと隣接したセンターを1組(ピンクの枠で示した箇所)とした3組の交換となっています。
あれ、それならセンターの色が全て同じだったら都合がよいのでは? という思いつきが浮かびますが正にその通りで、R'
セットアップをすることで [R' U' R, D]
の交換に関わるセンターパーツを全て同色(緑)にすることができます。
かくして、F面のコーナー3点の交換を [R': [R' U' R, D]]
という手順で疑似的に解決することができました。疑似的と述べたのは、一見分からないものの実際にはセンターも含めた交換が行われているからであり、セットアップを用いる際にはこの点に注意する必要があります。
また、このコーナー解法手順を使うには、センターを先に解決しておくことも必要です。
前述の説明により導き出された [R': [R' U' R, D]]
= R U' R D R' U R D' R
、これらF面コーナー3点を反時計回りに交換する手順なので、簡便のためこれを X'
と呼ぶことにします。
F面コーナー3点を時計回りに交換する手順は [R': [D, R' U' R]]
= R' D R' U' R D' R' U R'
となります。これを X
とします。
コーナー交換の手順はこの2つの手順がほぼ全てです。あとはセットアップや持ち替えでなんとかしましょう、という方針を筆者は取っています。
コーナー交換手順 X
, X'
は、前述の通り実際にはセンターも交換する手順であるため、セットアップを用いるにはセンターを崩さない手順を用いる必要があります。例えば下図の L
の動きはF面センターを崩すため、セットアップとしては利用できません。
F面のコーナーのみを入れ替える BL
や D
、またF面に干渉しない B
の動きはセットアップとして使用することができます。
また、先ほど L
の動きはセットアップに利用できないと述べましたが、センターを丸ごと置き換える Lw
の動きであれば、セットアップとして利用することができます。その他の2層回しでは Uw
や Rw'
が利用可能です。
バッファ FR を含む面は F 以外にも U, BR, R があるので、持ち替えによりこのそれぞれの面でのコーナー3点交換手順を利用することもできます。
FR BLB DR の交換は [y2: X]
、逆交換は [y2: X']
でできます。これらをそれぞれ Y
, Y'
と定義します。
セットアップを用いる場合は各コーナーの外側の面に対して行います。
FR BLF BRB の交換は [y' x': X]
、逆交換は [y' x': X']
でできます。これらをそれぞれ W
, W'
と定義します。(W は white から)
セットアップを用いる場合は、各コーナーの側面のうち、時計回り方向に向かう面に対して行います。
[画像未作成]
さらに FR BRD DF の交換は [z': X]
、逆交換は [z': X']
でできます。これらをそれぞれ Z
, Z'
と定義します。
セットアップを用いる場合は、各コーナーの側面のうち、反時計回り方向に向かう面に対して行います。
これらの持ち替え手順を併用することで、セットアップに必要な手数は多くとも2手で済ませることができます。コーナー手順における持ち替え、セットアップの詳細についてはやはり FTO algs を参照願います。
CO の解決では筆者は現在のところ X
, X'
を用いた以下の手順を用いています。
X [Uw BR': X]
→ FR FL の COX' [Uw BR': X']
→ FR FD の CO展開すると R' D R' U' R D' R' U R' Uw BR' R' D R' U' R D' R' U R' BR Uw'
(FR FL の場合) と、22手のかなり長い手順となりますが、基本手順 X
, X'
を習得しておけばそれほど難しくはないかと思います。(もしより短いCO手順があるようでしたら情報頂けると幸いです)
よろしければご覧下さい。
FTO 目隠し解法を習得、達成するにあたっては上述の FTO に関する情報だけでなく、3x3x3 等のキューブパズルの目隠し解法(3-style)の知識が大いに役立ちました。これらの洗練された解法情報が参照可能となっていることに改めて感謝する思いです。
benpuzzles (Ben Streeter) さんには上記動画解説でお世話になっただけでなく、自分の 最初の FTO BLD ソルブ動画 にも称賛のコメントを頂きました。有難うございます。
FTO の画像は alg.cubing.net [v2 beta] のツールを使用させて頂きました。有難うございます。
また、FTO に触れるきっかけとなったHさんの呟きに感謝します。