この記事はSpeedcubing Advent Calendar 2021の8日目の記事です。7日目の記事はじゅうべいさんの「傀儡魔方1号(Puppet One)ダイジェスト: J式で行こう」でした。9日目の記事はくるくるキャプテンさんの「目隠しでキューブアート!」です。
北村曉と申します。今年の Advent Calender はなかなかにコアな話題が続いておりますが、ここで一つキューバーならどなたでも楽しめるような、やわらかめの記事を出してみたいと思います。8日目ということで、8つのパーツをもつパズルであるピラモルフィックス(Pyramorphix)について取り上げてみます。
キューブ関連のオフ会に参加すると、WCA種目となるパズルの情報交換の他にも、どなたかが持ち寄った変わり種の立体パズルに興じることがあります。そのようにして自分が出会ったパズルのうち、シンプルでありながら初見では難解であるパズルの一つが、このピラモルフィックスであると思います。
一見すると、ピラミンクスからの類推で、コーナーのみが回転する、パズルの体を成していない物体のようにも見えますが、実際触ってみると思わぬ箇所が回転することが分かります。
さらに回転するとどんどん変形していくというのも、このパズルの魅力であると言えるでしょう。
宇宙船
ヨット
飛行機
※形の名前は自分が勝手に呼んでいるものです。
この記事は、3x3x3キューブ(ルービックキューブ)が揃えられる人向けに、通常の3x3x3キューブ手順を応用したピラモルフィックスの解き方を提供するものです。既知の手順を使用するので、パズル独自の回転記号や新たな手順を覚える必要がなく、割とすぐに解けるようになるのではないかと思います。これを読んでピラモルフィックスが解けるようになったら、自分でパズルを入手して楽しんでみたり、他の方にもピラモルフィックスの面白さを伝えたりして頂けたら幸いです。
まだピラモルフィックスをお持ちでない方は、Webブラウザ上で操作できるものがありますので、こちらで確認しつつ記事を読んで頂ければと思います。
まずパズルのパーツについて、角の部分をコーナー、そうでない一色のみのパーツをセンターと便宜上呼ぶことにします。
「ピラモルフィックスとはどんなパズルなのか」を説明するために、まずは以下の写真に示すようにパズルを保持します。コーナを左手に持ち、それを左後ろに構え、上部の辺が水平になるようにします。中心の分割線が "+" の形に見えるようにしましょう。(これを基本の持ち方とします)
この状態からパズルを回転させてみると、
右半分(R)
上半分(U)
前半分(F)
が、それぞれ90度ずつ回転できることが分かります。当然左、下、後も回せますので、パズルの中心から6本の回転軸が存在するという仕組みになっていることが分かります。
まとめると、
……といった特徴をピラモルフィックスは備えているわけですが、このようなパズルについて、キューバー諸氏には既に心当たりががあるのではないでしょうか。そう、実はピラモルフィックスは、8つのコーナーパーツで構成される立方体パズルである2x2x2キューブと同じ仕組みを持つパズルなのです。
また、このことから、ピラモルフィックスにおけるコーナーとセンターは、実は同等のパーツであるということも理解頂けるのではないかと思います。なので2つのピラモルフィックスのパーツを入れ替えると、このようなこともできてしまいます。
コーナだけ、センターだけを集めた2つのピラモルフィックス
センターに関しては、ただ一色をもつパーツであり、どのような向きになっても見た目が変わらないため、「向き(CO)の概念がないコーナー」と考えることができます。
ピラモルフィックスの仕組みがつかめたところで、実際の揃え方の説明に入ります。2x2x2キューブの初心者用の解法と同様、下層の完全1面を揃えてから、上層(LL)を揃えていく、という流れで揃えていきます。
完全1面ってどういうこと? とお思いの方もいるかもしれませんが、要は以下のようにセンター2つ、コーナー2つがそれぞれ対角の位置にあり、色が揃った状態を目指す、ということです。
完全1面(下から見た図)
まずはどれか1つのコーナーについて、コーナーのどれか1色の面と、同じ色のセンターが隣接した状態を目指します。と言っても、多くのスクランブル状態ではそのような組み合わせが既に存在していることも多いかと思います。もし揃ったものが無くても、1手か2手で合わせることができますので、特に説明はいらないかと思います。
次に、コーナーの別の色の面と、同じ色のセンターを隣接させます。これも1手か2手で揃えることができるでしょう。
最後に、先ほど合わせたセンターの2色を持つコーナーを揃えます。ここから先は、先に説明した、基点のコーナーを左奥で持つ持ち方を基本とし、その状態の回転記号で説明していきます。この持ち方であれば、パズルを保持しつつ R, U, F の回転が行えるので便利です。
基本の持ち方
完全1面の最後のコーナーは、3x3x3キューブにおける F2L の手順、または初心者解法で完全1面を作る際にコーナーを揃える手順と同様の動きで揃えることができます。以下に完全1面があと1つのコーナーで揃う画像と、揃えるための手順例を記載します。
R U R'
U R U' R'
(R U R' U') * 3
または R U2 R' U' R U R'
これで完全1面を揃えることができました。
上層の揃え方について、3x3x3キューブ(CFOPメソッド)の考え方だと OLL、PLL というステップで揃えていきますが、ピラモルフィックスだと同じ向きに同じ色で揃えるということができないため、OLL の考え方を適用することが難しいです。そのため、まずはコーナー・センターの位置を合わせてから(CP)、コーナーの向きを合わせる(CO)、というステップで揃えていくことにします。
コーナーの位置合わせですが、まずは正四面体の形に成形した上で、コーナーの位置が違っていたら入れ替える、という2つの段階で揃えていきます。
上層が成形された形
下層を揃えた時点で、このように既に正四面体の形になっていた、つまり上層のコーナー、センターが互いに対角の位置になっていた場合はラッキーでした。次のステップへお進み下さい。
上層が成形されてない形
成形されていない形、というのは、このようにコーナー、センターが隣接した状態になっているわけですが、これを成形するには、コーナー2つを左側に向けた状態で、(画像右の向きから)以下の手順を使用します。
R U R' U' R' F R' F'
この手順は OLL 手順ですが、Tパームの前半部分でもあるため、初心者解法のみを学んだ方にも馴染みがあるかと思います。
[3x3x3キューブで説明!]
3x3x3キューブで R U R' U' R' F R' F'
とその逆手順を回してみて、コーナーに注目すると、この手順では右手前以外の3つのコーナーが反時計回りに位置を変えていることが分かります。立方体パズルだとコーナーの向きが変わってしまいますが、このピラモルフィックスの解法では「向きはどうでも、まずは位置を揃える」ことを目標としているため、この8手の手順で十分となるわけです。
成形できたら、上層のセンターの色を下層に合わせてみましょう。この状態では、以下の2通りの状態があり得ます。
前者であった場合はラッキーでした。次のステップへ進みましょう。
後者である場合、コーナーの位置を入れ替えるには、画像の向きから以下の手順を使用します。
(F R U R' U' F') U'
() 内の手順はいわゆる「6手OLL」であり、初心者解法でも用いられるため、キューバーには馴染みのある手順かと思います。
[3x3x3キューブで説明!]
3x3x3キューブで (F R U R' U' F') U' とその逆手順を回し、またコーナーに注目してみます。すると右手前と左奥のコーナーの位置は変わらず、左手前と右奥のコーナーの位置が入れ替わっていることが分かります。この場合もコーナーの向きは取り敢えず考慮しなくてよいため、コーナーの対角交換ではこの 6手OLL + U' で十分ということになります。
ようやく最後のステップとなりました。コーナーの向きについては様々な状態が考えられますが、まずは1つのコーナーの向き(だけ)を揃える手順を記載します。これを覚えれば、2つのコーナー向きが違っていても1つずつコーナーの向きを揃えることで完成することができます。
(R U R' U' R U2 R') U2
U2 (R U R' U' R U2 R')
U2 (R U2 R' U' R U' R')
(R U2 R' U' R U' R') U2
これは写真右の向きより U2 (R U R' U' R U2 R')
で揃います。
これは写真右の向きより U2 (R U2 R' U' R U' R')
で揃います。
() 内はそれぞれ Sune, Anti-sune と呼ばれる OLL 手順であり、初心者解法のコーナーOLLでも用いられるので馴染み深いことでしょう。
場合分けすると少々ややこしいですが、要は
をすればよい、ということになります。
[3x3x3キューブで説明!]
3x3x3キューブで (R U R' U' R U2 R') U2 とその逆手順を回してみましょう。するとコーナーの位置関係は変わっておらず、左手前のコーナーを除く3つのコーナーが時計回りに変化していることが分かります。3つのコーナーが変化するのであれば、1つのコーナーだけの向きを変えることはできないのでは? とお思いかもしれませんが、このピラモルフィックス解法においては、右手前と左奥にあるのはセンター、即ち「向きの概念がないコーナー」となっています。センターはいくら向きが変わってもそのことを気にする必要がないため、この手順を使うことで、右奥のコーナーのみの向きを時計回りに直すことができるということになります。
反時計回りの場合は単純に逆になるため、説明は省略します。(気になる人は、実際に3x3x3キューブを回して確認してみましょう!)
これでピラモルフィックスを完成させることができました。おつかれさまです!
コーナーの向きについては、上述の通り1つ1つ揃えていってもよいのですが、ちょっと工夫することで2つのコーナーの向きを同時に変えることが可能です。それらの手順について記載します。
U (R U R' U R U2 R') U
U' (R U2 R' U' R U' R') U'
これは写真右の向きより U' (R U2 R' U' R U' R') U'
で揃います。
実は最初の U は U, U' のどちらでもよく、要は90度回した位置から Sune (または Anti-sune) を回せばよいということです。なぜこれで2コーナーの向きが揃うかは、先の [3x3x3キューブで説明!] を読んだ方なら理解頂けることでしょう。
また、2コーナーの向きについてはそれぞれ逆の向きになっている状態もあり得ます。この場合は少し特殊な手順となります。(と言っても手順自体はご存知のものであることでしょう)
F R U R' U' R U R' U' F'
F U R U' R' U R U' R' F'
OLLで使われる手順であり、「6手OLLを2回する手順」(と、その逆手順)でもあるので、3x3x3キューブ初級者の方であってもすぐに覚えられるかと思います。(これも気になる方は、ぜひ3x3x3キューブを実際に回してみて効果を確かめてみて下さい!)
以上が自分なりの「ピラモルフィックスの解法」となりますが、いかがだったでしょうか。ピラモルフックスの仕組み自体もさることながら、普段3x3x3キューブで使っているOLL手順にはこんな効果があるのか、というところにも気付きが得られたなら幸いです。
また、ピラモルフィックスのような、「○○のように見えて実は××と同じ仕組み」という立体パズルは他にもあるので、この記事をきっかけに、他の変形立体パズルについても自分なりの解法を追究していく楽しみを、ぜひ感じて頂ければと思います。