『義膝蓋骨のなぞ』について、常塚聴さんよりご意見を頂きました。有難うございます。以下に抜粋して記載します。
さて、「漢字雑文」に掲載されておりました「義膝蓋骨」の件ですが、いささか調べてみましたところ次のようなことが分かりました。
まず、この該当部分の原文は以下の通りです。
" 'Oh, at his new offices. He did tell me the address. Yes, 17 King Edward Street, near St. Paul's.'
"I started off, Mr. Holmes, but when I got to that address it was a manufactory of artificial knee-caps, and no one in it had ever heard of either Mr. William Morris or Mr. Duncan Ross."
"And what did you do then?" asked Holmes.(REDH, from "The Baker Street Connection(http://www.citsoft.com/holmes3.html)")
つまり、新潮文庫版で訳者の延原謙氏が「義膝蓋骨」と訳したのは"artificial knee-caps"であることになります。これを見る限り、「義膝蓋骨」という訳は原文に忠実なものであるといえましょう。
なお、この個所は他の翻訳では、「膝蓋骨の義骨」(菊池武一訳・岩波文庫版)、「義手や義足」(日暮雅通訳・ちくま文庫版)などとなっています。
それにしても、当時のロンドンにはこういう工場が存在していたのでしょうか。定かではありませんが、あってもおかしくないとは言えそうです。
と言うのも、原文によればこの工場は「セント・ポール寺院そばのキング・エドワード通り17番」にあることになっていますが、当時この近くにはセント・バートロミュー病院という病院がありました。病院のそばに医療器具を作る工場があっても、不思議ではないといえましょう。
なお、このセント・バートロミュー病院にはかつてかのドクター・ワトソンも勤務していた、そうです。
(2000年7月18日)
北村曉 kits@akatsukinishisu.net