長訓読み選手権

「長訓読み」に関する注意も参照下さい。(2004年3月18日)

一つの漢字をかなにして最高何音で読めるだろうか? 常用漢字では「こころざし」、「うけたまわる」などが五音で読めるが、JIS第一・第二水準漢字まで範囲を広げると「センチメートル」と七音で読める漢字がある。

しかし、大漢和辭典の字訓索引を眺めていると、もっと長い訓読みをたくさん見つけることができる。例えば、

[石水]もをかかげてみずをわたる

など。

訓読みというより文章である。自分も初めて見たときには、この読み方を訓読みとして受け入れるのに多少の抵抗があったのだけれども、考えてみればもともと漢字には、昔の中国での読み方である音読みしかなかったわけで、「漢字に日本語での意味をあてて読む」という点では、日常でつかっている訓読みと同じなのだ。たぶん。

長い訓読みをもつということは、それだけ複雑な意味をもつ字だということの現われであり、そういう字が多数存在することからも漢字の奥深さを知ることができる。


そんなわけで長訓読みをもつ漢字をつらつらと集めてみました。

[金頁]あごがしゃくれる 「しゃくれる」という言葉はすでにあご限定の動詞のような。「[金頁]しゃくれる」という読みの宛てかたもアリかも。
[(狐-瓜)卑]あしのみじかいいぬ ダックスフントにこの字をあててはどうだろうか、とふと思いました。この字には「くびのみじかいいぬ」という訓もあります。
[牛罷]あしのみじかいうし というのもいます。ちょっと見てみたい。
[瓦_(罐-缶)]あるきかたがただしくない そんなことを言われても。
[瓜(罐-缶)]うりがころがる この字がこの意味だけをもつ字、というのがスゴイ。瓜ってそんなに転がり易いのだろうか。
[鹿'迷]おとりのしか 囮にされてしまったら、そりゃ鹿もまようことでしょう。
[~臣臣/一+介]おどろきはしる[風/2風] おどろいても、そのあと走り出すことは滅多になさそうだけれども。
くびきりばった いったいどんな虫だろうか? 字の意味は「ごきぶり」ではあるが。
[頁(燐-火)]かみがすくないさま 髪が少ないことをあわれんでいるというのだろうか。それはあんまりだ。
[(目目)*大]きょろきょろみまわす 「きょろきょろ」ていう響きが何かいいです。目が二つなのもそれらしい。
さもあらばあれ この詠嘆のことばはいいなあ。自分の書く文章中にもいつか使ってみたいです。
つきのくらいぶぶん (覇) ……って、三日月とかになっている時に影になってる黒い部分のこと? そんな限定したトコロにまで漢字があるとは!
[(狐-瓜)干]とらをおういぬ 「おう」は「追う」の意です。つよいぞ犬。
[韋亟]なめしがわがかたい それはその革職人さんのなめし加減によるのでは。
[目(崔/冏)]にくにくしげにみる 「にくにくしげ」って何かいいなあ。って五つ上でも同じようなこと書いたけれども。
[(病-丙)'((夢-夕)/目)]びょうにんがあるく ひとり暮しで風邪などひくと、寝てばかりはいられなくてちとつらいものです。
[口呉]わらおうとする ということはじっさい笑ってなかったわけで、それとただの笑っていない状態とを見分けるのは至難のワザのような。

あ、肝心の「一番長い訓読み」を持つ字は下の二つです。

てなわけで、今のところ十三音が最高のようです。

(1999年11月14日)

追記

『新漢字必携』等の漢字検定協会の参考書によると、「蔘」の字には「ちょうせんにんじん」という九音の訓があるそうです。Miya−Nさんから報告頂きました。(2001年11月20日)

北村曉 kits@akatsukinishisu.net