「後ろ」にはなぜ送り仮名の「ろ」がつくのだろう、とふと思う。「うしろ」という言葉は、意味は抽象的とはいえ名詞には違いない。活用するわけではないのだからわざわざ「ろ」を送り仮名にする必要はないのではないか。ひとつの理由として、「あと」と読む場合と区別するため、というのが浮かぶのだが、果たしてそれだけの理由なのだろうか。
そういえば他にも「ろ」のつく名詞はあるなと思い返してみる。「蔑ろ」はどうだろうか。「ないがしろ」は「無きが代」の音便であり、「しろ」の部分を分断して「ろ」だけを追い出すとはいかにも理不尽な所業のように見える。しかし読む立場になると「ろ」を出すひとつの利点が思い浮かぶ。おそらくただ漢字一文字で「蔑」と文中に書かれても何と読むのか分からなくなるからではないか。だからせめて「ろ」をヒントとして読みやすいようにしているのではないだろうか。「『蔑ろ』。さあ読んでみたまえ」「ええと、ろ、ろ、ろ、……おもむろ?」「ブブー」
といったまちがいが、いくらなんでもヒントが「ろ」だけでは起こりそうなものだ。それを避けるにはいっそ全部覚えてしまえばよかろう、とばかりに「ろ」のつく名詞を辞書から探してみた。
おや、七つだけ*であったのか。ということは以上の「日本七大ろ」を覚えておけば、今後「〜ろ」という漢字で迷うことはないに違いない。覚えておくとしよう。とくに正反対の意味である「ねんごろ」と「ないがしろ」だけは間違えぬようにせねば。
* 見落としがあるかもしれないので、もし他にもあるようでしたらお知らせ下さい。
(2001年5月27日/加筆8月26日)
北村曉 kits@akatsukinishisu.net