デニーズへ夕飯を食べに行ったときのこと。
店員に案内された席のとなりには、母親とその子供(小学校低学年くらい)といった感じの人たちがいました。どうやら食事は終了し、デザートを待っている状態のようでした。
親子の話が聞くとはなしにこちらの耳に入ってくるのですが、自分のところに食前のコーンスープが来るころには、その話が子供の学業へと及んでいたようです。
で、とつぜん母親がこう切り出しました。
「さかなへんに雪って書いて何て読むかわかる?」
思わず食事の手が止まりました。すし屋ならともかく、なにゆえデニーズで魚漢字の話題を? しかもいきなりタラとはかなりハイレベルな気がしますよお母さん。そのお子さんの年ではタラの実物さえも目にかかる機会は少ないと思いますが。
「んー、シャケ?」
「シャケはさかなへんに土ふたつって書くのよー」
嗚呼、やはり子供はタラを知らなかった様です。しかし母親はまたも容赦なく問題を繰り出してきました。
「じゃ、さかなへんに弱いは?」
「んーと、カツオ?」
「どうしてカツオが弱いのよう。カツオは強いでしょう」
いやお母さん、その年で魚の強弱を判別するのもまた難しいのではないでしょうか。などと思っていると子供が言いました。
「じゃーサンマ」
うむ。弱いかもしれない。
「さかなへんに弱いはイワシって読むのよ。じゃあアジは何て書くでしょう?」
あ、アジですか。アジだったら……あれ? しまった、この期に及んでアジの漢字を忘れてしまった! わーなんたる不覚。いや落ち着け。アジの漢字の何たるかはじきに母親が明かしてくれる筈。そしたらもう二度と忘れないぞ。
「あー、お母さんアジって何て書くか忘れちゃったー」
おおおおおおーいっ。何てこったいまさかそうこられるとは。自分の人生で「〜の漢字が何か知りたい度」がこれほどの高まったことは無いというのにー。
母親はどこからか紙とエンピツを出し、漢字を思い出そうといろいろ書き出しています。頑張れ。
「あ、思い出した。さかなへんに旨いって書くのよー」
あ、なるほどアジっていうくらいですから………………………………………………ってそれは
その後、親子はデザートを食して先に退出し、自分は独りジャンバラヤを食したのですが、魚のアジが気になって気になって気になって気になって、そのときの味を忘れてしまったのでございます。
註: ちなみに、アジは「鯵」でした。
(2000年2月28日)
北村曉 kits@akatsukinishisu.net