新しくできた電気屋を見つけたので行ってみました。うちにあるCDラジカセが壊れていたので、安いものがないかとAV機器コーナへむかったところ、「シングルCDラジカセ」という物を発見。
――なんと、シングルCD専用のプレイヤーなるものが作られているとわ。
値札を見ると確かに安めであるし、そう言われて見るとCDを入れるところも普通のものとは若干小さいような気が。そうするとこれはおそらく「CDシングルをカセットテープに録音する」という機能に特化した機器なのだろう、と見当をつけました。なるほど現代日本の音楽市場においてはシングルヒットが重要視されるわけで、そういった流行を追いかける人もある程度の数はいるのかもしれぬ。しかし最近では12センチシングルなどを出すアーティストも増えているというのに、そこんところは果たして大丈夫なのだろうかシングルCDラジカセよ。
などと初対面の商品の行く末を憂いつつ、他のCDラジカセを見てみると、そのあたりはどれも「シングルCDラジカセ」という表示のものばかり。イヤイヤ自分が聴きたいのは主にアルバムCDであって、シングルも聴かないことはないが、古来「大は小を兼ねる」の言い伝えのあるとおり、アルバムCDが入ればシングルCDだって入るわけなのだから、そんな特殊な機器は自分にはいらないのだ。求めるものはごく普通のアルバムCDが入るCDラジカセ、この店のジャンル分けに倣うとすれば「アルバムCDラジカセ」を欲しているのだ。さあアルバムCDラジカセは一体どこなのか。
と、少々の苛立ちを胸に秘めつつ徐々に値段の高い方へと目線を移動させていると、ある地点で「ダブルCDラジカセ」なる商品札が目に入ってきました。
…………。
や、いささか不意打ちを食らった恰好になりましたが、心を落ち着かせもう一度両者を見比べてみました。その結果「ダブルCDラジカセにはカセットデッキが二つある」ということを発見しました。ここに至り、シングル・ダブルという形容詞は「CD」へ掛かるのではなく、勿論「ラジ」に掛かる訳も無く、あろうことか言葉を二つ飛ばしたところに位置する「カセ」に掛かるのではないか、という説を得たのでありました。
とはいえ一旦抱いた先入観はなかなか拭えるものではなく、改めて「シングルCDラジカセ」を見ても、落ち着いてみるとCDの入るところはダブルのものと同じ大きさのような気もするのですが、でも本当はやっぱりちょっと小さいのでは、などとと思ってしまうのです。
店員に訊くべきだったでしょうか。しかし、これだけ多くの「シングルCDラジカセ」「ダブルCDラジカセ」の札を自信あり気に並べられると、それに対して疑問を呈するのは、開店準備でたいそう働いたでことであろう店員の労力に対して申し訳ないと思われたのです。
あれこれ考えた末、もし購入した後でアルバムのCDを聴こうとした時に、端っこが引っかかって入らなかったりしたらやはり悲しいので、その店でCDラジカセを購入するのはやめよう、と決意したのでありました。