宇宙で最も短い小説……
それは、*#@¥星系のジモチイ星にある、と言える。
ジモチイ人の書き言葉は他に類を見ない独特のもので、あらゆる文章を、たった一つの文字で表してしまうのである。
彼等の「文字」とは、一辺二十センチほどの正方形の中に何本か(伝える意味の多さによって変わる。通常は二十本くらいまで)の曲線をひいたものであり、その曲線の位置や曲がり具合が、様々な意味を表すのである。
言語学者によってはこの曲線一本が一つの文字だという主張もあるが、これらの曲線は相互に作用して意味を表すものであり、一概に一本づつ分解してその意味を解読することが出来るというものではない。であるから私には、この「曲線の集合」が一つの文字=文章である、との解釈が正しいと思われるのだ。
平面に描くことの出来る曲線の数(濃度)は「アレフ2」であるそうだから、この文字体系は様々な事象を伝えるのに十分事足りるとは言え、驚くべきことではある。
ジモチイ人の出版物は総て、二十センチ四方の板に描かれた一つの文字であり、物語も勿論同様である。ジモチイ人は文字の中の線の並び、曲がり具合、交叉のしかたなどを読み取り、笑い、泣き、興奮し、そして感動するのだ。
読者の中にはこの、「たった一文字で書かれたショートショート」を読みたいと思われた方も居るに違いない。だが、それならばジモチイ語を一生懸命勉強することだ。翻訳が出ることはおそらく無いだろう。
何故か?
何故ならば、翻訳されてしまっては、それは「最も短いショートショート」ではなくなるからである。
(宇宙探検家、フリードリヒ・フォン・ミュンヒハウゼン記す)■