青空文庫で何か読もうと思い、芥川龍之介の『秋』を選んで読みまして、ひとつ気になる箇所がありました。以下、話の内容に触れます。
といっても本筋とはやや離れたところではあるのですが。ざっと説明すると信子さんと照子さんという姉妹がいて、姉の信子さんは結婚して東京を離れ、大阪へ越してしまっていました。別れる前に照子さんは涙ながらに信子さんへの手紙を書いており、信子さんは一人になるとそれを時々読んでおりました。
結婚した当初は幸せに暮らしていた信子さんですが、時々夫とうまく行かないこともあり、そんな時に泣きながら心の中でこう呼びかけるのです。
照子。照子。私が便りに思ふのは、たつたお前一人ぎりだ。
……果たしてこの「便り」という言葉は、本当に照子さんの手紙のことを思ったものなのか、或いは「頼り」のつもりで書いていたのか、それとも意図的に「便り」と「頼り」を掛けたものなのか……暫く考え込んでしまったのでありました。
ところでなぜ芥川龍之介の『秋』なのかというと、何となく「あ」ではじまる有名な作家で、「あ」からはじまる作品を選んだのに過ぎなかったりします。
青空文庫にある芥川作品では『あばばばば』も好きです。
(2001年8月30日)
北村曉 kits@akatsukinishisu.net